修士論文題目
「密度汎関数法を用いた遷移金属二核ヒドリド錯体と不飽和化合物との反応の解析」
複数の金属中心が基質に同時かつ協奏的に作用することで、単核錯体では起こりえない特異な反応が進行することを期待して複核ヒドリド錯体が合成され、{η
5-C
5Me
5}Ru(μ-H)
4Ru{η
5-C
5Me
5} (
1)や{η
5-C
5Me
5}Ru(μ-H)
3Ir{η
5-C
5Me
5} (
2)とエチレンとの反応は、エチレンのC-H結合切断を経てジビニル基を持つ二核錯体をそれぞれ生成することが報告されている。これらは複核錯体の特異な反応性を示す最小の系である。本研究では複核錯体の反応の、実験的手法では情報が得られない短寿命の中間体や遷移状態を密度汎関数法で求め、特徴を明らかにすることを目的とした。また錯体
2とアセチレンとの反応についても解析した。
本論文は六章からなる。
第一章には本研究の背景と目的を記した。
第二章では、計算法の最適化を{η
5-C
5Me
5}IrH(μ-σ:π-CH=CH
2)
2Ru{η
5-C
5Me
5}について行い、計算は2層のONIOM法で、C
5Me
5基をC
5H
5基に換えたモデルを High Layerとして B3LYP法、分子全体をLow Layerとして Dreidingを用いるのが最適であると結論づけた。次に錯体
1とエチレンとの反応の全体を解析した。エチレンのC-H結合を酸化的付加で切断する素反応では、エチレンが一方のRuに金属-金属軸に対して斜めにπ配位しており、他方のRuとアゴスティック相互作用している中間体が収束した。続く遷移状態は一方のRuがエチレンとのπ配位を保持し、他方のRuにC-H結合が付加する構造をしており、金属間での役割分担を明らかにした。
第三章では、錯体
2によるエチレンのC-H結合活性化反応について解析した。Ruが活性化サイトとなる経路、Irが活性化サイトとなる経路では、後者の方が活性化エネルギーが低くなることが分かった。
第四章では、錯体
2とアセチレンとの反応を検証した。アセチレンが2分子π配位した後、Ruに配位したヒドリドが架橋アセチレンにシス付加して、ビニル基がRuにσ結合した中間体になった。架橋ヒドリドをもつ安定な中間体に変換した後、そのヒドリドがもう一分子のアセチレンに付加をして、2つのビニル基がRuにσ結合したジビニル錯体が生成することを明らかにした。
第五章では本研究を総括した。
第六章では実験法とデータをまとめた。