説明



1 本研究室では、合成化学の手段を使って生命分子を対象とする研究を行なっている。これによって、「分子」の「機能」って一体何か?つまり分子を扱う学問である化学の未来を開拓する問題に取り組む。研究手段として、触媒分子の合成と化学反応のテスト、反応理論(コンピュータも紙と鉛筆もプラスチックのモデルも使う)、各種機器分析を駆使する。

 分子機能を考えた場合、タンパク質は究極である。たとえば、酵素は、触媒として化学反応を選択的に加速する抜群の性能を持つ。人の手による触媒ではなかなかまねできない点が多い。酵素反応といえども、決して生命の神秘で済ませずに、分子の発揮する化学的な性質であるという発想で、そのスーパーパワーの原理を見ることが可能である。その正体は何か、をじっくりと調べることはとても役に立つ。

 化学反応は物質生産の根本である。当研究室では、化学反応を効率的に促進させる触媒について研究している。とりわけ均一触媒が研究対象である。タンパク質・ペプチドを選択的に分解する触媒をめざしている。核酸や糖鎖の切断やその他の有機合成反応(グリーンケミストリー)にも関係してくる。目標達成には分子に関する深い理解が不可欠である。


2 環境問題への貢献:人間の活動によって生じる環境への負荷を高い技術力で軽減することが、環境問題の根本からの解決策となる。現代の応用化学はまさに、必要な物質を、効率的に、安全に、環境に配慮して生産する技術体系をめざしている。当研究室ではこの観点からも、個々の研究テーマの推進に先立ち、まず各自が正しく実験を計画できるようになることを重視する。有害物質の排出や事故の危険を防止する技術力をみがく安全教育でもある。


3 研究に係わる主な分野:有機合成、多核金属錯体触媒、水中での有機化学反応(いわゆるグリーンケミストリー)、各種機器分析(各種クロマト、各種分光法、マス、電気泳動、その他物性測定)、コンピュータ分子設計とシミュレーション(個々の研究テーマいずれもこれらの要素を総合的に含んでいる)


4 研究テーマ

(1) タンパク質を高選択的に切断し機能変換する触媒(人工ペプチダーゼ)の開発

 タンパク質という生命を担う高機能性物質も、やはり化学構造式で表せる分子である。この分子を思いのままに使いこなす技術をめざしている。難病の原因除去といった健康に係る問題や、次世代の分子工学の創成をねらっている。長い鎖を切る高機能触媒(特にZn錯体触媒)の分子設計が鍵である。

(2) 森林資源の有効利用方法の開拓

 日本は森林資源大国である。しかし、現在は大部分が利用されずに放置されている。森林資源の活用は一見歴史が古そうであるが、先鋭的な技術を投入して挑戦すべき研究課題である。セルロースを有機化学原料に変換する研究課題は、興味深い化学の問題をいろいろ提供してくれる。触媒と反応の条件がカギである。

(3) 合成小分子-生体高分子のハイブリッドによる超分子触媒(材料)

 タンパク質またはDNAの機能をさらに高める超機能性分子系の構築に取り組んでいる。生命分子の工学的な高機能化が目標である。

(4) 分子設計とコンピュータによる可視化

 理論的方法(分子軌道法、分子動力学法)で分子の立体構造と、それがどう動くかを調べる。見えない分子の挙動が、具体的に見えるということはとても役に立つ。しかも、見ておもしろい。


5 当研究室で必須の要件

○体力が有ること:実験、特に合成を行う場合、長時間集中し、立って作業をする必要がある。

○毎日朝10時以前に来て準備できること:研究室のすべての作業は継続的に行う必要が有る。各自の都合のよい時間帯での行動は不可能であり、認められない。

○自ら勉学と研究を進める意志のあること:

○学ぶ意志があること:この2項目はセットである。自力で計画的にできるようになることが本来の目的。意欲ある学生には責任持って指導する。最高レベルの実験・研究方法論を伝授する。

○これまでの成績:研究室は全く違う世界であるのでほとんど問わないが、本研究室に関連する分野をこれから勉強する意志がある者のみ受け入れる。指導教員および研究室メンバーとの日常的なコミュニケーションは必須である。これが、各自の頭脳の鍛練と社会に出て活躍するため最も重要な基本スキルとなる。